芸術的存在 // 加藤泉
活力を表現する
加藤泉は1969年島根県生まれ。 武蔵野美術大学に入学し、1992年に油絵科を卒業しました。現在、泉は1年の3分の1を日本で、3分の1を香港で過ごし、残りの時間を世界中を旅して過ごしています。
泉は、絵画を基本に活動しています。2003年より木彫作品の制作に着手。以降、平面絵画から立体彫刻まで、ソフトビニール、石、布などを用いた作品を制作。独自の世界観で、生き物、特に人間を独自に捉えています。
1.「無題」、木にアクリル、プラモデル、ソフトビニール、アルミニウム、ステンレススチール、65 x 225 x 65 cm、 ©️ 2023 加藤泉
泉は2007年のヴェネツィア・ビエンナーレに招待されて以来、国際的に認知され、日本だけでなく世界のアートシーンに活躍の場を広げ、世界中に熱心なファンを獲得しています。
泉の近年の主な個展としては、2018年中国・北京のレッド ブリック アート ミュージアム、2019年メキシコ・プエルト エスコンディードのFundación Casa Wabi、2019年に東京と群馬の原美術館とハラ ミュージアム アークでの2会場展、2021年に米国サバンナのSCAD美術館などがあります。また、2014年よりペロタン ギャラリー(ニューヨーク、パリ、上海、香港、ソウル)で個展を開催しており、2022年にはロンドンのスティーブン フリードマン ギャラリーでも個展を開催しています。
泉の作品は現在、東京都現代美術館で2024年8月3日から11月10日まで開催されている「私的現代日本美術展 高橋龍太郎コレクション」にも展示されている。
2. 「私的現代日本美術展 高橋龍太郎コレクション」展示風景、東京都現代美術館、東京、日本、 ©️ 2024 加藤泉
いろは:最近の作品について教えてください。今年5月に千葉で開催された「 100年芸術祭」で初めて映像作品を発表しましたね。
泉:その芸術祭のキュレーターを務めていたアーティストの安良武志さんからお誘いがあったんです。「会場は九十九里浜で、釣りもいいから一緒にやらないか」と。釣りは大好きなので、ぜひ参加したいと思いました。ただ、絵や彫刻を展示するには厳しい条件でした。そこで武志さんが「浜辺で絵を描いてみたらどうか」と提案してくれて、大潮の日を選んで、干潮のときに描き始めて、満潮のときに波にかき消されるまでを動画で撮影しました。作品としては成功したと思います。釣りに関しては、前日に嵐があってまったくの失敗の日でした。
3.アートプロジェクト「山武市百年五芸術祭」の映像作品、千葉県、©️2024 加藤泉
いろは:これまでで最も思い出に残っている展覧会は何ですか?
泉:どの展覧会も新鮮で楽しいです。いろいろな意味で一番衝撃的だったのは、2018年に中国・北京のレッドブリックアートミュージアムで開催した展覧会です。中国は日本からとても近いアジアの国ですが、日本と違うところがたくさんあります。美術館のコンセプトも違います。スケジュールはタイトでクレイジーで、作品は時間通りに届きませんでした。それでも美術館自体はとても印象的でした。私にとっては珍しいことですが、初めて布を使いました。展示会場で展示をしました。とても素敵な作品になりました。
4.インスタレーションビュー、「加藤泉」、北京レッドブリックアートミュージアム、中国、 ©️ 2018 加藤泉
もうひとつは、2020年に東京の原美術館と群馬のハラ ミュージアム アークで同時開催された個展です。東京展は新作ばかりで、群馬展は回顧展でした。両方見れば、この四半世紀やってきたことのすべてがわかる。原美術館は大好きな美術館だったので、閉館前に見ることができて嬉しかったです。
5.インスタレーション風景、「加藤泉 - LIKE A ROLLING SNOWBALL」、原美術館、東京、 ©️ 2019 加藤泉
6.インスタレーション風景、「加藤泉 - LIKE A ROLLING SNOWBALL」ハラ ミュージアム アーク、群馬、©️2019 加藤泉
いろは:あなたの作品は、不気味だったり滑稽だったり、場所や時間、視点によって見え方が変わるところがありますね。どこか原始的な印象もありますが、これは意図的なものなのでしょうか?
泉:半分は意図的で、観る人が考えてくれるように作っています。残り半分は自分の嗜好や価値観です。私は島根県の出雲地方の出身で、神話やアニミズム、神道などが生活の中に入り交じっています。ネイティブ・インディアンやイヌイットのような感覚ですかね。海外で活動するようになって初めて、その環境が影響していることに気づきました。ただ、意識しているわけではなく、自然に作品に表れているという感じです。
7. 「無題」、キャンバスに油彩、146 x 292 cm、 ©️ 2023 加藤泉
いろは:若い人たちにアドバイスをするとしたら、何を伝えたいですか?
泉:私にとってうまくいったことが、必ずしもあなたにもうまくいくとは限りませんが、私が知っていることを隠すつもりはありません。具体的なアドバイスはないのですが、アートは一人では作れません。作品自体は自分で作りますが、それを世に出すまでにはたくさんの人が関わっています。一人でやっているのではないと感じられると、とても楽しいです。いろいろな場所に行って、知らない人に会う。今は役に立たないかもしれませんが、あなたにとっては貴重な人間体験です。
いろは:世界で仕事をしていると、自分がアジア人、日本人であることを意識することはありますか?
泉: 30年くらい前、初めてヨーロッパに行ったとき、「日本人なのになぜ油絵の具を使うのか」と聞かれました。でも今は、みんな日本のことをよく知っています。「日本のどこの生まれ?」と聞かれるくらい日本に興味を持っています。アートの世界では、作品が良ければ受け入れられます。でも、あえて言うなら、日本人はすごく不利な立場にいると思います。日本という国にアートに対する理解が足りないからです。お金を持っている人や政治家など、もっと理解してほしいです。国をあげてアーティストを支援している国がうらやましいなと思うこともあります。
いろは:今後のプロジェクトについて教えてください。
泉:この秋、京都の両足院でメキシコ出身のアーティスト、 ボスコ・ソディさんと展覧会をします。私たちは20年来の友人で、キャリアも似ているので気が合います。彼の作品はダイナミックで私とは大きく異なりますが、世界観は似ているので、お互いの作品を並べても違和感なく調和できると思います。友人同士の楽しい展覧会です。お寺というロケーションも良いですね。
8.展覧会「黙」広報イメージ、京都両足院禅寺、 ©️ 2024 加藤泉、 ©️ 2024 ボスコ・ソディ
ボスコはメキシコのプエルトエスコンディードでCasa Wabiというアーティストレジデンスをプロデュースしています。現代アートと地域コミュニティーを結びつける非営利団体で、今年は私も参加します。アートや音楽など文化活動に携わっている40歳以下の日本人2名を毎年住まわせるという企画です。私はお金だけ出して、ちゃんとしたキュレーターが選考委員を務めます。秋から応募を受け付けますので、ご興味ある方はぜひチェックしてみてください。
いろは:仕事以外で興味のあることは何ですか?
泉:趣味はたくさんあります。釣りもそのひとつ。一番は音楽。学生時代からずっと音楽に関わっています。子どものころは、画家というよりミュージシャンになりたかったんです。実は5、6年前に学生時代の友人たちとバンドを再開したんです。新しいアーティストの友人たちとバンドを組んだりもしました。今はレコードレーベル( Potziland Records )を持っていてライブもやっています。あとは自分で本を作ったり、プラモデルを作ったりしてアート作品にしています。毎日忙しいです。大人になったほうが人生は楽しいですね。